PAN 005

ひとつながりの営みの中で。

アイヅチ

神奈川_愛川町

週の5日は農家をして、

あとの2日がパン屋さん。

2足のわらじに見えるけれど、

実は全部がつながっている。

食卓の上で完成する無垢なパンを

毎日の営みの中で今日も作る。

パチパチパチパチ。〈アイヅチ〉の店主、長島和裕さんがひとり作業する工房に、焼きあがったバゲットがささやく小さな破裂音が響く。表面の皮が冷める際に割れて鳴る音が、おいしく焼けた証拠だ。「バゲットの材料は、小麦、塩、水、自家製のレーズン酵母。それだけです」。シンプルな材料でできている分、その日の気温や湿度の影響を受けるため、毎日同じものを作るには高い技術を要する。「実はパン屋の修業はしていないんですよ。3カ月ほどパン屋さんにアルバイトに行って、道具と使い方だけ覚えました。あとは独学ですね」。

1_ぐっと切り立ったバゲットのクープ(切れ目)。小麦の香りと甘味がしっかりして、焼いてバターを塗ってシンプルに食べるのが、一番おいしい食べ方。2_ハード系がメインの中、お客さんが帰りの車でも手軽に食べられるものを、と作るクロワッサン。少な目の巻き回数で、独特の形をしている。3_天然酵母のパンは、イーストを使ったものよりも穏やかに膨らむので、生地の密度が高い。時間が経っても、もっちりとしている。4_お店のとなりにある工房から、焼きあがったパンを運ぶ際に一度外を通る。お店の外装、什器などは手作り。水道・電気工事も自分たちで行った。5_開店に向け、バゲット、カンパーニュ、ローフと、限られた作業スペースで少量ずつ時間をかけて、長島さん一人で焼き上げる。

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本厚木駅からバスで30分ほど揺られると、あたりには広い空と田園風景。その一角、長島さんの自宅の敷地内にお店がある。営業日は週末にかかる2日間だけ。それ以外の5日間は、自然栽培の農業を営んでいる。収穫の時期には、店頭にパンと一緒に畑で採れた野菜が並ぶ。パン屋を始めた理由は、祖父が農家で、それを軌道に乗せる難しさを知っていたことと、家族と一緒に過ごす時間が欲しかったから。「パン屋に強いこだわりはなくて、家族を養えれば何でもよくて。でも始めてみると、自分によく合っていました。こつこつ研究して形にするのが面白くて、そこは農業も同じ」。農業とパンと家族との生活。長島さんの中では全部がつながっている。将来の目標は、自分で栽培した小麦を使ってパンを作ることだという。つながった輪は、どんどん大きくなる。

お店で扱うのは、クロワッサンなどの一部を除き、バケットやカンパーニュといったハード系の定番商品がメイン。そこには、毎日の食事に添えるパンを作りたいという思いがある。「忙しい毎日でも、家の食事に少し手間をかけてほしいんです。惣菜パンを買って食べるより、よく焼いてバターを塗ったり、好きなサラダを挟んで食べた方が絶対おいしいから。それが食卓の豊かさにつながると思います」。

Shop Data

アイヅチ

神奈川県愛甲郡愛川町角田134-10

営 11:00~18:00  (売り切れ次第閉店)

休 月・火・水・木・日曜

※2018年5月号掲載時の情報です