Neighbors

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2023/01/26

鹿児島・日置市

ふたりの、お客さんの感覚を大事に。

鹿児島県・伊集院にある<quiet.>。市街地から離れた静かな場所で趣のある古いものや器、キッチン用品、オリジナルの真鍮アクセサリーを販売している。お店を営むのは島田和文さん実香子さんご夫婦。長年ポニオさんの愛称で親しまれている和文さんが古いものに惹かれるようになったのは、10代のころにジーパンを育てた経験から。縦落ちやアタリを作るためになるべく洗わないで履くなど、道具に味を出したり新しいものに風合いを出したりすることが好きになった。倉庫をリノベーションした空間でお店を営むのも、古い建物に魅力を感じることからだ。

2022年1月に現行品の器を扱う<Rim.>をquiet.の隣にオープンしたのは、お客さんの反応がきっかけだった。quiet.で現行品の器を少し置いていたとき「予算の都合でアンティークには手が出せないけどこっちだったら」と手に取る人が多くいたという。お客さんが求めていることを肌で感じたこと、また品揃えや価格のバランスに優れた器屋がないこともオープンを決めた理由だ。「雑貨屋さんは少しだけ器を置いてたり、置いてるものも作家さんの高いものだったりして、ちょうどいい器屋がないなと思って」。Rim.では作家さんの器は扱わず気軽に手に取りやすい窯元さんのものを集めており、器に惹かれても価格が合わないと思ったら取り扱わないこともある。一方、quiet.では厳選して作家さんの商品も扱う。田口智史さんの器に出会ったのは、益子焼の展示会で栃木に足を運んだときのこと。窯元さんの出展がほとんどの場で広島から来ていた田口さんの作品に魅せられた。経年変化の味わいを楽しめる器にふたりとも直感的に惹かれ、その場でたくさん作ってくださいとお願いしたという。田口さんの寡黙な人柄や「何焼きでもありません」という型にはまっていない姿勢にも好感が持てた。九州では取り扱いがなく、自分たちが新たに紹介できることもうれしかったという。

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Rim.の店内。什器もすべて古い木を使っている。中央の什器は、オーストラリアの枕木を自ら提供して知り合いの家具職人うちのうら屋さんに製作をお願いしたもの。

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田口智史さんの器は、長い年月使われてきたかのような独特な佇まいが魅力的。数あるデザインのなかでも、アンティーク洋食器の趣があるものをセレクトしている。

古道具のなかでもふたりが特に好きなのは、オブジェにしかならないような使い方がわからないもの。囲炉裏の上についた魚、鴨猟で囮として使われるデコイ、昔使われていた木製のボーリング玉などが自宅にたくさんあるという。2017年に現在のお店を移転オープンしたころは、商品にも海外の農具やワラをかき寄せたりすくったりする道具など特殊な古いものが多かった。しかし、来店してすぐに帰られる方もいて、お客さんの様子を見て品揃えを少しずつ変えていった。現在は食器など日常で使いやすいアンティークを意識して置き、気軽にプレゼントを買いに来られるような、足を運びやすい品揃えになっている。 quiet.では和文さんが制作したアクセサリーも販売する。きっかけとなったのは、スズを用いる作家さんの特集を雑誌で見たこと。十字架のネックレスが掲載されており、そのいびつな形に魅了されたものの「これなら自分でも作れそう」と思って制作を始めた。独学で少しずつ展開していきペンダントやピアス、ブローチ、リングなどを手掛けるようになった。もっとも人気なのは「JE SUIS MON/自分らしく」「SERENDIPITY/素敵な偶然」などのメッセージ(全8種)が入ったリング。2千円前後と手に取りやすい価格設定もうれしい。「きらきらしたその日の気分でつけるような指輪は作ろうと思っていなくて、お守り感覚でずっとつけてもらえるものを目指しています」。さまざまな商品を扱っているが、自分で作ったものが売れる喜びは特に大きい。「アクセサリーをなくした方は、絶対って言っていいくらいまた買いに来てくれるんです。ずっとつけてたのでないと嫌だって。そんなふうにいわれたときが一番うれしいですね」。

まだ漠然としているが、ゆくゆくは自分たちで作ったものとこだわりのある古いものだけを扱う物販、そしてカフェを生業にできたらと考えている。現在はあまり時間を設けられていないが、実香子さんも布製品を作って販売していた時期があり、自分で制作したものが売れる喜びの大きさを感じていた。カフェを考えているのはもともと料理が好きなこと、また元気であればずっと働ける仕事がしたいと思っているから。自分が作ったもので、お客さんにその場で直接喜んでもらえることも魅力に感じている。日常から少しだけ離れて過ごす自分だけの時間。「訪れてくださった方の心を軽くしたい」という想いで営まれるふたりの空間には人の心に響くものであふれている。

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text_Daiki Nagaya